XR産業応用
人の知覚・認知・行動の変容を活用する「体験の価値」設計論
行動・技能・安全意識を変容させるXRの未来
■概要■
XR機器・部材・コンテンツ開発者、そして次世代の応用価値を追求する研究者におくる
本質的な「体験の設計」を通じてXR技術を人の行動・意識・伝達手段の変革へと導くための最前線の知見を統合的に解説
ある映画では、カーペットの手触りの違和感から 「これは夢だ」と気づく場面が描かれる。例えばVR体験においても、没入感が高まるほど現実との境界は曖昧になるが、ある瞬間の違和感が「体験の価値」を揺るがすことがある。
Meta社では『Visual Turing Test』(現実と区別できない視覚体験の実現)の達成を長期的な目標としているそうだ。本書でも解説されるとおり、XR技術の発展は日進月歩である。このおかげで今日では没入感の高い体験が可能となり、現実では高リスク・再現困難な状況の仮想体験や、現実環境とのインタラクションによる作業支援や判断補助が実現される。
しかし、それらを「貴重な体験ができた」「実際にあるような感じがして面白かった」という感想だけで終わらせてはないだろうか。 体験のその先で得られるものこそが、今後研究と議論が重ねられる領域である。
その得られるものや感じ方を意図的に設計することが、応用段階において一層求められていくように思う。
XR技術は「豊かな体験の創造」にとどまらず、ユーザが何を感じ、何に気づき、どう変わるか、-つまり自己変容の契機としても機能し得る。
熟練者の技能や危険場面の疑似体験などを通じて、ユーザが自身を重ね、意味づける構造がそこにある。今後、開発者は何を見据えるべきか?
本書が皆さまの今後のXR技術開発の視点を広げる一冊となれば、嬉しく思う。
■ポイント■
・XR業界全体の技術的な進化の方向性
主要なプレイヤーがどのような技術開発やビジネス戦略を進めているか
・XRデバイスの要素技術に関する専門知識の深化
XR機器を構成するディスプレイ、光学レンズ、センサといったハードウェア要素技術
・人間の知覚や認知の特性を利用した「錯覚」を情報提示技術へ
従来のXR技術の限界を超え、新たな体験を生み出す可能性を
・XRコンテンツの設計に:体験の“意味”をデザインする
ユーザが仮想環境をいかに現実として認識するか、身体性をどう感じるか、人間の心理や認知にXRがどう影響するか-
これまで追求してきた高解像度といった目標が、単なる技術的な優位性だけでなく、人間の心理、認知、行動、さらには現実認識そのものに深く影響を与える、より高次の価値デザインに
・多様な産業応用事例の参考と新たな可能性の探索
XR技術が現場の課題をどのように解決し、どのような効果をもたらしているか
市場の具体的なニーズを理解し、新たなアイデアを得たり、特定の業界向けのコンテンツ開発のヒントに
・XR技術が抱える課題の理解と解決策の探索
ユーザの不快感(3D酔い)、教育効果、安全意識の向上といった課題とそれらを解消するための技術開発や改善活動に取り組む上での出発点に
<1>錯覚によって広がる情報提示の可能性
・触覚の錯覚と情報提示
・身体感覚の錯覚と情報提示
・アバタ心理学と情報提示
<2>XR関連技術・ビジネス・業界動向
1.XR(VR・AR・MR)技術の変遷と今後の展望
・VR・AR・MRとは
・MRの歴史と研究課題
・AR/MRの今後の展望
2.XR技術のビジネス活用動向
・ビジネスユースXRの概要
・用途事例
・展望
3.XR端末の主要メーカ/ユーザの開発潮流と個社戦略
・特許情報のマクロ分析及び全体俯瞰
・特許情報のミクロ分析並びに分析結果に基づく業界潮流及び個社戦略
・製造業用途の個別分析
4.XRデバイスの光学系&ディスプレイ技術動向
・XRデバイスの光学系&ディスプレイ技術動向
5.XR光学系レンズにおける要求素材特性と光学特性の制御
・XRデバイスに用いられるレンズの種類
・ポリカーボネート
・熱可塑性樹脂の高屈折率化,低複屈折化PC
6.バーチャルリアリティを支えるセンシング技術
・計測対象
・計測手法
・Outside-looking-inとinside-looking-out
・XR時代の計測
<3>XRと心理学
1.実在感の科学
・実在感とは
・知覚的実在感
・信念としての現実体験
2.ベクションの教科書
・ベクションの定義
・ベクションの歴史
・ベクションの諸様相
・ベクション刺激としてのCG表現
・ベクションの定義の変化
・ベクションから身体への影響
・芸術表現への活用
・まとめ
3.バーチャルリアリティと時間感覚
・心理的時間と時間知覚モデル
・VRと心理的時間
・考察
4.VR HMDにおける視覚・聴覚刺激呈示の正確性・精度
・知覚・認知研究におけるVR HMD
・VR HMDによる視覚刺激呈示
・VR HMDによる聴覚刺激呈示
5.認知サイバネティクス
・要素技術開発から体験デザインへ
・認知サイバネティクス
6.ゴーストエンジニアリングとその応用の可能性
・視点変換
・VRパースペクティブテイキング(VRPT)
・変身
・分身・合体
・ゴーストエンジニアリングの長期的な活用と自己実現
7.3D視覚疲労・映像酔い/VR酔いの要因と映像の生体安全性に関する国際標準化動向
・映像の生体安全性
・3D視覚疲労及び映像酔い・VR酔い
・HMDの人間工学に関する国際標準化動向
<4>作業効率化,品質向上
1.製造業におけるMR(複合現実)の有効性検証アプリケーションの開発
・研究の方法
・結果
2.ARを用いたピッキング作業支援システムの開発とHMD表示画角の影響の分析
・ピッキング作業の効率化
・ピッキングシステムの設計
・事前検証システムの開発
・ARピッキングシステムの開発
・評価実験と考察
・表示画角の影響の分析
3.リアルハプティクス(R)技術と複合現実技術を用いた袋状食品包装の空気漏れ検査システムの開発
・包装食品における気体漏れの課題
・本研究で提案する気体漏れ検査システム
・気体漏れ検査システムの性能評価
4.受注設計生産におけるMRを用いた作業エビデンス取得手法
・対象とする製造現場
・関連研究
・提案手法
・評価
5.産業用ロボットの教示作業におけるMR(Mixed Reality)技術の応用
・ロボットのティーチングとMR技術
・タブレットによる位置決め評価
・タブレット上でのロボットシミュレーション
・HMDによるロボットの操作
・HoloLens 2によるティーチングと実機のプレイバック
・その他の応用例
6.建設工事における点群データと3DCADモデルを用いた機器搬入出シミュレーション事例
・三次元空間計測技術と点群データ
・日本における建設工事におけるICT技術の活用
・ICT技術活用の先行事例
・対象の選定
・システム構成
・点群データによる測定
<5>意思疎通,技術継承,操作訓練
1.仮想現実による計算科学を用いた原子・分子の世界の可視化とコミュニケーション
・利用可能なVR環境の導入と失敗
・コミュニケーションツールとして道筋
・化学反応を伴った系での活用と社外展開
・今後の技術発展への期待
2.実物のスプレーガンを利用したVR塗装技能訓練システム
・開発背景
・SPT3Dの概要
・システム構成
・主な機能
・システムの仕組み
・SPT3Dのメリット
3.マルチモーダルVR溶接訓練システム
・認知サイバネティクスに基づく作業分析
・形式知化せず体感する姿勢学習技術
・触覚を使ったマルチモーダル運動学習技術
・注意誘導訓練技術
・認知サイバネティクスによる統合的な訓練システム
・認知サイバネティクスによる統合的な体験のデザイン
4.熟練の技を記録して活用する技術伝承MRトレーニング
・TechniCapture(テクニキャプチャー)
・利用事例
5.製造業におけるMR(Mixed Reality)を使用した早期検証と活用事例
・MREALシステム開発の歴史
・空間特徴位置合わせ技術
・OpenXRTM6)への準拠
・MREAL導入の効果と活用方法
・活用事例
6.MR(Mixed Reality)技術を活用したプラント検査員の教育システム
・開発の背景
・MR検査員教育システムの概要
・システム導入の効果
7.現場課題の解決を支援するXR応用技術
・遠隔作業支援システム
・VR活用トレーニングシステム
<6>安全教育
1.安全教育へのXR応用とその効果
・危険感受性と危険回避可能性との関係
・危険感受性の向上のための安全衛生教育
・安全教育VRに期待される効果
2.現場における危険を,安全に再現,体感できるxR技術活用
・NECソリューションイノベータが考えるxR技術の産業応用への期待
・NEC VR現場体感分析ソリューション
・最新の取り組み事例
・VRアプリケーションを開発する上での課題
3.クロスモーダル現象を利用した危険誘発体感装置
・背景
・装置の概要としくみ
・安全教育現場での活用
4.アプリ連動電気刺激デバイスの開発と応用
体験的学習による安全意識の革新を目指して
・デバイス概要
・開発の背景:なぜ「安全な感電体験」が必要なのか
・感電の生理学的影響
・想定される多様な活用シーン
・今後の展望
5.三機テクノセンターの安全体感研修エリアにおけるVR技術の活用
・三機テクノセンター設立の背景と研修エリアの概説
・「安全体感研修エリア」におけるVR導入とその背景
・VR体験内容(シナリオ)と実績紹介
6.疑似的な危険体験教育の意義と諸課題
・知覚の成立とVR
・VR技術の実用化
・疑似的な危険体験を取り入れた訓練・教育
・危険感受性と危険敢行性
・疑似的な危険体験と危険補償行動
・疑似的な危険体験を取り入れた訓練・教育のポイント