■ポイント■
・近年、食品に含まれる様々な成分の機能性が明らかにされてきており、機能性食品の研究・開発・加工においては、食品成分の吸収・代謝・作用機序に対する十分な理解が求められる!
・好評を博した2018年発行の「食品機能性成分の吸収・代謝・作用機序」から7年、その後の研究展開をまとめた待望の続編!
・確かな機能性と安全性を兼ね備えた機能性食品の開発に役立つ1冊!
■概要■
本書は、2013年に発刊された「食品機能性成分の吸収・代謝機構」と2018年に発刊の「食品機能性成分の吸収・代謝・作用機序」のさらなる発展版であり、その後のこの領域の研究進展が著しいことによる。近年の精密分析機器による解析精度の向上は、これまで不十分であった分析を可能にし、新知見が見出されてきている。ただ、分析機器の保守管理には多大な研究資金を要することが多く、分析化学を進める上での大きな課題でもある。そのためか、最近では分析化学の研究室がいくつかの大学から消えつつある。一方、食品成分の分析に簡便で安価な臨床検査用キットを使用した報告がなされつつあるが、食品サンプルと臨床試料とではサンプルマトリックスが大きく異なるため正確な分析はできないことに留意すべきである。摂取したある食品成分が肝臓で代謝を受け糞中排泄されるため循環血流に乗らないのに、その成分が抹消組織にまで運ばれて機能性を発揮するがごとくのマスコミ報道を目にすると、食品成分の基本的な吸収・代謝の理解の重要性を感じる。長寿のための健康寿命の伸延には、日々摂取する食品の働きが根本的に重要であり、不健康になって摂る医薬品とは異なる。そのためにも食品成分の吸収・代謝・作用機序を十分に理解する必要があり、産業界における新食品の加工開発にあっては基本的にこの視点が要求される。
本書を取りまとめるにあたり、大変ご多忙の中を熱心にご執筆いただいた先生方には心から御礼を申し上げる。本書を一読することにより、食品成分の吸収、代謝、作用機序の最先端が理解でき、機能性食品に関心のある研究者、栄養士、医師の方々のお役に立ち得ると信ずる。
【第1編:食品機能性成分の探索と評価技術】
<1>生活習慣病予防に資する食品素材からの(機能性)関与成分の探索
1.はじめに
2.糖尿病をとりまく状況
3.糖尿病の予防に資する食品素材:サラシア
4.おわりに
<2>皮膚機能を高める食品素材の研究とその実用化
1.はじめに
2.皮膚機能を高める食品成分
3.3つの食品素材の併用効果
4.おわりに
<3>時間栄養学の創生と食品機能性成分の探索
1.時間栄養学の創生
2.食品機能成分の探索
<4>機能性表示食品における機能性関与成分の分析法開発の進展
1.はじめに
2.高機能分析装置を使用した機能性関与成分分析法の開発
3.測定物質の信頼性向上に寄与する分析法開発
4.おわりに
【第2編:機能性成分の吸収・代謝・作用機序】
[アミノ酸]
<5>ショウジョウバエを用いた食理学:非必須アミノ酸チロシンの感知による栄養適応
1.はじめに
2.栄養・代謝研究におけるショウジョウバエの有用性
3.シグナル分子としてのアミノ酸感知機構研究の進展
4.タンパク質欠乏に対する適応応答
5.チロシン分解による高タンパク質ストレスへの適応
6.非必須アミノ酸チロシンの制限が寿命を延長させる
7.栄養維持性アミノ酸による個体の生理制御
8.おわりに
<6>食物由来水溶性アミノ酸エルゴチオネインによる認知機能改善効果
1.エルゴチオネインとは
2.ERGOの吸収、分布、代謝、排泄とその予測
3.脳実質細胞におけるOCTN1の発現とERGOの作用
4.認知機能とERGO
5.ERGOが直接相互作用する標的分子
6.まとめ
[ペプチド・タンパク質]
<7>経口投与で有効な脳神経調節ペプチド
1.はじめに
2.食品由来の生理活性ペプチドの発見
3.ペプチド体内動態と中枢作用-コラーゲンペプチドの例-
4.構造-活性相関に基づく新規ペプチド探索-牛乳ペプチドの例-
5.経口投与で強力な生理活性を示す中分子ペプチドの腸脳連関
-大豆ペプチドの例-
6.その他の食品由来の脳神経調節ペプチド
7.今後の展望
<8>ヒト血液への食品由来ペプチドの吸収
1.はじめに
2.ペプチド
3.動物試験によるペプチド吸収性試験
4.ジペプチド、トリペプチド摂取後のヒト血中移行
5.オリゴペプチド摂取後のジペプチド・トリペプチドの血中移行
6.修飾ペプチドやその他のペプチドのヒト血液中への移行
7.おわりに
<9>大豆β-コングリシニンの脂質代謝改善効果
1.はじめに
2.大豆タンパク質の構造
3.大豆タンパク質とメタボリックシンドローム
4.大豆タンパク質の高コレステロール低下効果
5.β-コングリシニンの高中性脂肪低下効果
6.β-コングリシニンの内臓脂肪低下効果
7.β-コングリシニンへのさらなる期待
8.最後に
<10>ラクトフェリンの多機能性
1.ラクトフェリンについて
2.多機能性を生物学的に見る
3.多機能性を産業面から見る
4.おわりに
[糖質・食物繊維]
<11>希少糖アルロース(プシコース)の生理機能と食品への利用
1.希少糖とは
2.アルロース
3.アルロースの生理機能
4.アルロースの食品への利用
5.おわりに
<12>難消化性オリゴ糖の生体利用性ならびに生体調節機能
1.はじめに
2.難消化性糖質の代謝経路と代謝産物
3.プレバイオティクス効果とその他の生体調節機能
4.難消化性オリゴ糖の葉酸欠乏改善に関する研究
5.難消化性オリゴ糖による葉酸過剰への影響に関する研究
6.おわりに
<13>海藻由来硫酸化多糖類の食品機能性
1.はじめに
2.海藻に含まれる多糖類とその特徴
3.海藻硫酸化多糖類の消化と吸収
4.フコイダンとは?
5.フコイダンの生理学的効果
6.フコイダン含有食摂取に伴う抗がん免疫機能の増強
7.感染免疫の制御におけるフコイダンの作用機序
8.フコイダンの免疫調節作用の発現機構
9.フコイダンの生理作用と安全性に関する臨床評価
<14>グルコサミンの関節保護作用の分子メカニズム
1.はじめに
2.グルコサミンのNF-κB経路を介した抗炎症作用
3.グルコサミンのオートファジー誘導を介した軟骨保護作用
4.おわりに
<15>免疫調節で期待される天然素材:ペクチンの機能性と活用展望
1.はじめに
2.ペクチンを資化する腸内細菌叢
3.ペクチンの腸内細菌代謝物による免疫調節
4.免疫細胞に対するペクチンの直接的な作用
5.まとめ
[脂質]
<16>食事脂質の栄養と代謝
1.はじめに
2.食品中の脂肪酸と生理機能
3.トリグリセリドの消化・吸収・代謝
4.グリセロリン脂質・グリセロ糖脂質の消化・吸収
5.ステロールの消化・吸収・代謝
6.脂質栄養に関する食事摂取基準
7.おわりに
<17>食品に含まれるセラミド関連脂質の消化・吸収と機能性
1.はじめに
2.食品に含まれるセラミド関連脂質について
3.セラミド関連脂質の消化・吸収
4.スフィンゴ脂質の経口摂取による皮膚バリア機能向上作用
5.おわりに
<18>DHA・EPAの生理作用と健康機能
1.はじめに
2.DHA・EPAの認知および啓発
3.加齢科学
4.生活習慣病
5.吸収・代謝
6.おわりに
<19>リン脂質・糖脂質の機能性
1.はじめに
2.リン脂質(グリセロリン脂質)
3.糖脂質(グリセロ糖脂質)
4.スフィンゴ脂質
5.おわりに
<20>プラズマローゲンと脳神経機能
1.はじめに
2.プラズマローゲンの構造と役割
3.加齢・疾患におけるプラズマローゲンの変化
4.プラズマローゲンの食品機能
5.おわりに
<21>こめ油副産物由来機能性成分の多角的有用性:グルコシルセラミド、トコトリエノール、c-オリザノールを中心に
1.はじめに
2.米由来グルコシルセラミド
3.新規アシル化グルコシルセラミドの化学構造と生理活性
4.トコトリエノールの構造
5.トコトリエノールの吸収と分布
6.トコトリエノールの機能性
7.γ-オリザノール
8.おわりに
[ビタミン・ビタミン様物質]
<22>細胞内アスコルビン酸量の変化と生理作用の関係性の解明
1.はじめに
2.生体内におけるアスコルビン酸定量の意義
3.食品中アスコルビン酸の分析法
4.細胞内アスコルビン酸のHPLC-MS/MSによる分析
5.まとめ
<23>ビタミンEとその同族体の生理作用
1.ビタミンEとは
2.ビタミンE同族体の吸収・輸送
3.ビタミンEの体内動態と代謝ならびに代謝産物の生理作用
4.ビタミンE同族体の抗酸化作用
5.ビタミンE同族体の生理作用:NASH、NAFLDの予防効果
6.ビタミンE同族体の生理作用:ナトリウム利尿作用
7.ビタミンE同族体の生理作用:抗炎症作用
8.ビタミンE同族体の生理作用:抗肥満作用
9.ビタミンE同族体の生理作用:抗がん作用
10.ビタミンE同族体の生理作用:アルツハイマー型認知症予防効果
<24>ビタミンKおよび関連イソプレノイドのもつ新たな健康機能性
1.はじめに(ビタミンKの古典的な作用を含めて)
2.テストステロン産生増強作用
3.グルコース依存性インスリン分泌増強作用
4.抗炎症作用
5.PXRを介した遺伝子発現制御
6.おわりに
[植物二次代謝産物]
<25>ポリフェノールと腸内フローラの機能的相互作用
1.はじめに
2.腸内フローラによるポリフェノールの異化代謝
3.ポリフェノールによる腸内フローラへの影響
4.おわりに
<26>食品由来ポリフェノールの生体利用性が関わる構造変化と機能性発現
1.はじめに
2.ポリフェノール配糖体・エステル化合物の消化吸収
3.ポリフェノールの抱合代謝と機能性
4.ポリフェノールの標的臓器
5.おわりに
<27>植物化学成分による骨代謝制御
1.はじめに
2.植物エストロゲンによる骨代謝制御
3.植物化学成分の骨・脂質代謝調節機能
4.抗炎症・破骨細胞分化抑制作用が期待される植物化学成分のスクリーニング法
5.おわりに
<28>食事由来ポリフェノールのセンシングメカニズム
1.はじめに
2.緑茶カテキン
3.プロシアニジン
4.大豆イソフラボン
5.センシングメカニズムに基づいたポリフェノール機能の増強
<29>食品に含まれるカロテノイドの機能性
1.はじめに
2.カロテン類の機能性
3.キサントフィル類の機能性
<30>β-クリプトキサンチンの生体調節機能
1.はじめに
2.血中のβ-クリプトキサンチン濃度に影響する要因
3.酸化ストレスと血中カロテノイドレベル
4.カロテノイド類の摂取量と血中濃度
5.喫煙と飲酒による酸化ストレスは血中カロテノイド値を低下させる
<31>タンパク質との相互作用を介したイソチオシアネートの機能性
1.はじめに
2.イソチオシアネート化合物の生成と生体内での代謝
3.イソチオシアネート化合物の化学的性質
4.イソチオシアネート化合物の機能性
5.イソチオシアネート化合物によるがん予防効果
6.イソチオシアネート化合物による神経突起伸長作用
7.イソチオシアネート化合物による炎症抑制作用
8.まとめ
[発酵菌]
<32>乳酸菌の免疫調節作用
1.はじめに
2.乳酸菌とは
3.腸管免疫
4.乳酸菌による免疫調節機能
5.Lactobacillus paragasseri SBT2055による免疫賦活作用
6.Lactobacillus helveticus SBT2171による免疫制御作用
7.今後の乳酸菌研究に求められるもの
<33>酢酸菌の免疫・抗アレルギー機能素材としての可能性
1.はじめに
2.免疫機能と酢酸菌
3.アレルギー症状軽減作用
4.感染防御作用
5.酢酸菌の摂取方法
6.おわりに
<34>プトレシン生産能を有する新規醤油乳酸菌
1.はじめに
2.醤油製造工程および醤油乳酸菌Tetragenococcus halophilis
3.ポリアミン合成経路
4.プトレシン生産能を有する醤油乳酸菌「PAM26株」の単離
5.PAM26株の菌学的、生理学的質
6.PAM26株のプトレシン生産能
7.プトレシン生産時のPAM26株の増殖能
8.応用事例.PAM26株を用いた醤油醸造
9.おわりに
■監修■
宮澤 陽夫
東北大学名誉教授