カーボンニュートラルのためのSOFC/SOEC技術
〜基礎・評価法から熱利用を含むシステム応用まで〜
■ポイント■
・近年注目の高まる固体酸化物セル(SOCs)に関して、基礎、評価法から応用までを、各分野の第一線の研究者が広範に解説!
・産学官および企業間連携、情報交換の要である、東北大学SOFC/SOEC実装支援研究センターのご監修!
・大学・研究機関の研究者のみならず、企業の研究者によるご執筆!
・比較のため、SOFC/SOEC以外の燃料電池・水電解装置の市場動向も記載!
・SOFC/SOECに興味を持つ研究者、企業、投資家などにとっての必携の書!
■概要■
カーボンニュートラルの実現に向けて節目とされてきた2030年はすぐそこに迫っており、様々な脱炭素化技術が開発・検証されている。
2050年までに構築されるべきネットゼロ社会の姿は未だ明瞭ではないが、これらの技術が評価されていく中で、インフラを含むエネルギーシステム全体のあり方が方向づけられていくものと推測される。より効率的に脱炭素を実現する社会の構築のためには、優れた技術がタイムリーに社会に提供されることが必要となる。
本書では、このような技術の中から、近年、注目度が高まっている、固体酸化物セル(Solid Oxide Cells, SOCs)を使った燃料電池と電解をとりあげた。固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)は、多様な燃料に対応して高効率な発電が可能な燃料電池として、国外の一部では業務用システムの導入が進み、国内でも家庭用燃料電池「エネファームType-S」が販売されてきた実績がある。この逆反応である固体酸化物形電解セル(Solid Oxide Electrolysis Cell:SOEC)は、排熱を利用した水蒸気電解により、他の電解技術に比べひときわ高い水素製造効率が達成できること、水蒸気と二酸化炭素の共電解が可能でグリーン燃料合成との相性も良いこと、などの特長を有する。
このため欧米では早くから実証に向けた取り組みが行われ、MW級のシステムも開発されている。国内の開発はやや遅れをとった感があるが、SOFC技術の高いポテンシャルがあり、開発の機運が高まっている。
ただ、固体酸化物セルは、他の燃料電池や電解セルとは技術要素が大きく異なり、特殊な知識やノウハウの蓄積が必要であるため、新規参入のハードルが高い。さらに、原料供給からセルの作製、スタック化、システム化のそれぞれを担う企業間の緊密な連携も求められる。そこで東北大学では、SOC関連の基礎知識や大学のシーズを提供するとともに、産官学・および企業間の情報交換の場を醸成することを目的に、2023年に「SOFC/SOEC実装支援研究センター」を設立した。現在、約30社が参画して活動を行っている。この活動の中で改めて認識されたのは、SOFC/SOECに関連する知識・情報の習得に対する需要の大きさと、その機会の少なさである。センターでは基礎講座や対面でのオープンサイエンスイベントを開催し、そういった声に応えようとしているが、時間的・人的制約がある。そのような時、シーエムシー・リサーチの吉田様から、本書の企画の提案をいただいた。この機会に、SOFC/SOECの開発を主導して来られた企業、研究機関、大学の方々にご協力を
いただければ、現時点での最先端の情報に加え、これまでの開発で蓄積されてきた知識や知恵を書籍として残し、広く公開することができると考え、本書の出版に至った。
SOFCとSOECの技術には共通する内容が多いので、本書の多くの部分ではこれらを区別せずに、あるいは併記して解説している。<1>では、SOFCの開発の歴史を振り返り、そこから技術の特徴や開発指針を考察するとともに、国内のプロジェクトの状況や、今後のSOFC/SOECの役割を概観する。<2>は、SOFC・SOECの動作や各部材の特性から、システムの熱設計に至る、基礎的な考え方について解説している。<3>は、開発において必要となる、セル、スタック、および構成材料の評価手法を紹介する。<4>では、先行してきたSOFCの開発事例を中心に、固体酸化物形セルの製造技術に関する取り組みを紹介し、強靭セルや信頼性向上の考え方についても解説する。<5>では今後大規模な開発が期待されるSOECを中心に、その燃料合成への展開や、水素型SOFCにも触れながら、カーボンニュートラルに向けたSOFC/SOEC技術を展望する。加えて、<6>では、比較検討のためにSOFC/SOEC以外の燃料電池および水電解装置も含めた市場動向を紹介する。
各節の執筆は、SOFC/SOECの研究・開発の第一線で活躍して来られた研究者・技術者の皆様にお願いした。どの記事も、それぞれの専門性や経験に基づく、示唆に富んだ貴重な内容を多く含んでおり、これらを一冊にまとめた本書は、研究開発の現場で、さまざまな形でお役立ていただけるものと確信している。SOFC/SOECの技術が早期に社会実装されカーボンニュートラル社会の重要な一翼を担う、その一助に、本書がなれば幸いである。
■監修■
東北大学SOFC/SOEC実装支援研究センター
<1>概要
1.SOFC/SOEC技術の概要
・固体酸化物形燃料電池(SOFC)の特徴
・固体酸化物形電解セル(SOEC)の特徴
・SOFC/SOECの構成
・SOFC/SOECのセルとスタックの形状
・平板セル構造のバリエーションについて
2.SOFC開発の歴史とSOECへの展開
・概観 世界と日本でのSOFC開発の特徴
・第1世代はセラミックスセル
・第2世代 金属インターコネクトの利用
・第3世代 金属支持セル
・トピックスとしてのPCFC
・SOFCの実用化
・SOECへの展開
3.水素エネルギー社会でのSOFC/SOECの位置付け
・カーボンニュートラル実現への固体酸化物形セルの重要性
・水素社会におけるSOFCとSOECのポテンシャル
・固体酸化物形可逆セルのポテンシャル
・炭化水素系燃料を用いたSOFCと水蒸気
─二酸化炭素共電解SOECおよび二酸化炭素電解SOECのポテンシャル
4.SOFC-SOECの研究開発プロジェクト
・克服すべき技術課題の整理
・SOFC-SOEC研究開発プロジェクトの経緯と概要
・固体酸化物形電解セル(SOEC、高温水蒸気電解セル)のプロジェクト
・まとめ
5.プロトン伝導セラミック燃料電池/電解セルの開発と課題
・国内外におけるPCC研究開発の現状
・PCEC(電解セル)への期待と課題
<2>基礎
1.固体酸化物による発電・電解の原理と動作
・火力発電と燃料電池、電気分解
・SOFC/SOECの動作原理
・SOCの起電力とガス分圧
・電圧 vs. 電流の挙動
・SOCの活性化過電圧の考え方
・多孔質電極の挙動
・電解質の電子輸送と酸素ポテンシャル分布
2.電解質材料と酸化物イオン伝導体
・酸素イオン伝導性の発現
・新しい酸素イオン伝導体の動向
・高イオン伝導体LaGaO3系酸化物の薄膜化と電解セル
3.空気極材料の物性・輸送現象と反応
・空気極材料の要件と反応
・混合導電性空気極材料
・空気極材料の特性と課題
4.燃料極材料の物性・微細構造と反応
・燃料極反応
・燃料極材料に求められる条件
・燃料極材料の種類
・サーメット燃料極
・その他の電極設計指針
5.インターコネクト用合金材料
・SOFCスタックにおける合金インターコネクター
・インターコネクト用合金材料の種類
・空気中での酸化と表面保護皮膜
・合金インターコネクターからのクロム拡散の問題とコーティング
・燃料中での水蒸気酸化と表面保護皮膜の重要性
・FeCrAl合金の表面アルミナ皮膜への導電性付与
6.SOFC/SOEC材料の機械的特性
・様々な応力場
・脆性・延性とは
・欠陥許容性
・製品(材料)ごとのバラツキ
・破壊判定基準
・部材内の化学ポテンシャル(酸素ポテンシャル)分布と
酸素不定非性による材料物性変化
・製造セルの微小変形評価
・製造セルの微小欠陥評価
・セルの応力変化のその場観察
7.SOFC/SOECシステムの熱設計
・SOFCシステムの発電効率の概観と基本事項
・いくつかのSOFCシステムの構成と特徴
・SOECシステムの熱設計
<3>評価・解析
1.単セル試験法〜直流・交流測定
・単セル評価試験
・セル構造の影響
・劣化耐久試験
・ボタンセルによるセル材料特性の評価
・三電極法による単セル評価
・交流インピーダンス法
・参照電極電位への電極配置・特性の影響
2.緩和時間分布(DRT)法による電気化学インピーダンス解析
・DRT法の原理
・SOFC/SOECへのDRT法の応用
3.スタック試験と性能評価
・スタック試験に関する留意事項
・試験における燃料ガス組成について
・試験装置
・スタック試験
・スタックの発電試験
・SOFCの性能要因評価
4.FIB-SEMと機械学習を利用した電極微細構造の評価
・FIB-SEMによる電極3次元構造再構築
・機械学習による構造評価
5.二次イオン質量分析計を利用した界面と反応の評価
・SIMSの特徴
・バルク中の物質移動の評価
・劣化機構解明
6.放射光を利用した電極反応場の評価
・オペランドXAFS測定によるSOFC空気極反応の解析
7.マイクロカンチレバー曲げ試験による電解質の機械的特性
・マイクロカンチレバー曲げ試験
・マイクロカンチレバー曲げ試験で測定したメソスケール力学特性
8.電極シミュレーション
・特性長さ解析
・電極1次元数値解析
・電極3次元数値解析
・様々な電極解析
<4>製造技術
1.家庭用SOFCスタックの開発から普及に向けた取り組みについて
・京セラにおけるSOFCセルスタックの開発の歴史
2.高性能SOFC開発の取り組み
・森村SOFCテクノロジー製セルスタックの特徴
・セルスタック開発状況
・ホットモジュール開発状況
・システム開発事例
3.金属支持SOFC/SOEC開発の動向
・平板形SOFC/SOEC支持体の種類
・粉末冶金とセラミックス共焼結による金属支持SOFC/SOECの開発
4.セル製作から運転までの全工程を通した機械的信頼性の向上
・焼結工程
・運転工程
・応力発生要因のばらつきが発生応力に与える影響
・材料強度と故障率について
<5>応用
1.SOEC技術の現状と課題
・高温水蒸気電解の開発動向
・高温水蒸気電解システムの課題
・高温水蒸気電解システムの開発状況
2.SOEC実証試験と高温排熱利用の展望
・近年のSOEC実証試験の状況
・三菱重工業でのSOEC実証運転のとりくみ
・SOEC高温排熱利用の展望
3.工場のカーボンニュートラル化に向けた水素SOFCシステムと低温排熱利用水蒸気電解SOECシステムの展望
・日本の産業界における二酸化炭素排出量
・未利用低温排熱を活用したSOECによる水素製造技術開発
・業務用純水素SOFCシステムの開発状況
・工場・事業所のカーボンニュートラル化への展望
4.SOEC水素製造システムの開発と展望
・グリーン水素製造技術
・SOEC水素製造システムの開発領域
・国内外での実証事例
5.SOECメタネーション技術による超高効率エネルギーキャリア、P2Gシステムの実現
・天然ガスによる低炭素化とe-メタンによるCN化の推進
・エネルギーのCN化実現に向けたエネルギーキャリアの必要性とe-メタン
・バイオマス、e-メタンの製造・利用サイクル、CO2削減効果
・SOECメタネーション技術の概要と特長
・SOECメタネーション技術革新に関する大阪ガスの取り組み
・SOECメタネーションによるe-メタンの
再エネ輸入キャリアとしての優位性
・SOECメタネーション技術が切り拓く“e-メタン革命”の姿
6.SOEC共電解とe-fuel合成
・SOEC共電解による合成ガス製造
・FT合成による合成粗油生成
<6>市場
燃料電池・水電解装置関連市場の世界動向と展望
(SOFC・SOECとアジアの動向を中心に)
・燃料電池と水電解装置の種類と概要
・燃料電池の市場規模と市場動向概要
・水電解装置の市場規模と市場動向概要