■ポイント■
・注目の「タンパク質分解医薬」について実用化に向けた基盤技術・評価技術を幅広く紹介!
・Targeted Protein Degradation(TPD)技術の基礎からタンパク質分解 医薬の臨床開発状況までくまなく網羅!
・タンパク質分解医薬の開発に役立つさまざまな技術も紹介!
・大学・研究機関の研究者のみならず、製薬企業の研究者によるご執筆!
・タンパク質分解医薬に興味を持つ研究者、企業、投資家など にとっての必見の書!
■概要■
近年、PROTACやMolecular Glueに代表されるタンパク質分解医薬に大きな注目が集まっている。PROTACは標的タンパク質とユビキチンリガーゼに結合するそれぞれのバインダーを繋いだキメラ型の化合物であり、標的タンパク質に結合するバインダーを取り替えることによって目的の標的タンパク質を分解する新規医薬品を合理的に開発することができる。もう一つのMolecular Glueは、従来の表現型スクリーニングなどで開発されてきた医薬品の作用機序が標的タンパク質分解によることが明らかになったものであるが、同様な作用機序を持つ化合物の知見が蓄積するにつれ、このタイプのタンパク質分解医薬を積極的に開発する動きが顕著になってきた。
これらタンパク質分解医薬の薬効は標的タンパク質を選択的に分解することによって発揮されるが、この活性は従来型医薬品の多くが示す標的タンパク質の機能を阻害する活性とは一線を画す。タンパク質分解医薬は従来の創薬手法では創薬が難しいと考えられてきた酵素活性を持たない転写因子などのタンパク質も効率よく分解できることから、アンドラッガブル(undruggable)なタンパク質をドラッガブル(druggable)にする創薬技術としても期待されている。
本書にはTargeted Protein Degradation技術の基礎からタンパク質分解医薬の臨床開発状況までくまなく網羅されており、さらにタンパク質分解医薬の開発に役立つと思われるさまざまな技術についても紹介されている。タンパク質分解医薬に興味を持つ研究者、企業、投資家などの皆さんにとって必見の書である。
【第Ⅰ編 タンパク質分解医薬】
<1>タンパク質分解医薬の基本的性質と臨床開発動向
1.はじめに
2.タンパク質分解医薬の分類
3.プロテアソーム依存型タンパク質分解医薬
4.リソソーム依存型タンパク質分解医薬
5.タンパク質分解医薬の優位性
6.タンパク質分解医薬の臨床開発動向
7.タンパク質分解医薬の現状と今後の展望
8.おわりに
【第Ⅱ編 タンパク質分解医薬】
各論1:Molecular Glues
<1>サリドマイド派生薬の治療作用と催奇性
1.はじめに
2.サリドマイドの誕生と基本的な作用
3.サリドマイド催奇性の概要
4.サリドマイド派生薬の誕生
5.サリドマイドおよび派生薬の標的因子cereblonの発見
6.サリドマイドおよび派生薬の基本的な分子機構の解明
7.サリドマイドおよび派生薬が分子糊分解薬であることの発見
8.サリドマイド催奇性の分子機構と種間特異性
9.CereblonのPROTACsへの利用
10.現在におけるサリドマイド派生薬の開発状況
11.Cereblonの元々の機能
12.おわりに
<2>近接ビオチン化法を用いたタンパク質分解医薬の解析
1.はじめに
2.タンパク質分解医薬依存的なタンパク質─タンパク質間相互作用
3.近位依存性ビオチン標識法
4.近接ビオチン化法を用いたタンパク質分解医薬依存的な相互作用解析
5.おわりに
<3>DCAF15モジュレーターとしてスプライシング因子RBM39を分解するインディスラムとE7820
1.はじめに
2.創薬分野におけるモレキュラーグルーの新展開:天然有機化合物から合成低分子化合物へ
3.スルホンアミド系抗がん剤の研究開発経緯
4.DCAF15モジュレーターとしてスプライシング因子RBM39を分解するインディスラムとE7820に関する新たな開発戦略
5.おわりに
<4>オーキシンデグロン法によるタンパク質分解
1.はじめに
2.オーキシンデグロン(AID)法の原理
3.第二世代システムAID2
4.PROTAC基盤デグロン技術
5.AID2とBromoTagの組み合わせ分解操作
6.将来の課題
【第Ⅲ編 タンパク質分解医薬】
各論2:PROTAC
<1>PROTACとSNIPER
1.PROTACs(Proteolysis Targeting Chimeras)開発の歴史
2.SNIPERs(Specific and nongenetic IAP-dependent protein erasers)
3.PROTACの特徴
4.PROTACの今後の展望
<2>中分子化合物を活用したPROTAC開発
1.はじめに
2.ペプチド型PROTAC
3.核酸型PROTAC
4.おわりに
<3>神経変性疾患に対する標的タンパク質分解薬
1.標的タンパク質分解薬PROTAC
2.神経変性疾患
3.神経変性タンパク質を分解するペプチドPROTAC
4.神経変性タンパク質を分解する低分子PROTAC
5.神経変性タンパク質を分解する疎水性タグ
6.神経変性タンパク質をオートファジー・リソソーム系で分解する標的タンパク質分解薬
7.非凝集性の神経変性疾患関連タンパク質に対する低分子PROTAC
8.標的タンパク質分解薬の脳内移行性
9.まとめと展望
<4>リシン修飾酵素に対する選択的阻害薬の創製とタンパク質分解医薬への応用
1.はじめに
2.ヒストン脱アセチル化酵素HDAC8に対するタンパク質分解医薬
3.ヒストン脱メチル化酵素KDM5Cに対するタンパク質分解医薬
4.おわりに
<5>E3リガーゼリガンドとPROTACの設計
1.はじめに
2.PROTACとE3リガーゼ
3.CRBN
4.VHL
5.IAP
6.PROTACに適用可能な他の代表的E3リガーゼ
7.まとめと今後の展望
<6>PROTACの作用機序:ユビキチンコードとその制御因子
1.はじめに
2.ユビキチンコード
3.タンパク質分解を担うユビキチンコード
4.分岐型ユビキチン鎖
5.ユビキチンコードの制御因子
6.PROTAC誘導性分解において形成されるユビキチンコード
7.標的タンパク質分解においてcIAP1が形成するユビキチンコード
8.PROTAC感受性に寄与するユビキチンコード制御因子
9.標的分解を制御するユビキチンコードの未解決問題
【第Ⅳ編 タンパク質分解医薬】
各論3:その他
<1>リソソームを利用する選択的分解医薬
1.はじめに
2.リソソームが関与する分解系
3.オートファジーを利用するデグレーダー
4.エンドサイトーシスを利用するデグレーダー
5.まとめ
<2>分解機構の直接リクルートによるタンパク質分解誘導戦略
1.はじめに
2.プロテアソームをリクルートする直接分解法
3.細菌のタンパク質分解機構ClpCPを直接リクルートする方法論
4.ミトコンドリアのタンパク質分解機構ClpPをリクルートする方法論
5.直接的分解法と間接的分解法との比較
6.今後の展望
【第Ⅴ編 タンパク質分解医薬品の実用化を後押しする支援技術】
<1>キメラ型タンパク質分解医薬と周辺技術の研究動向
(2024年に報告されたPROTAC論文の統計学的調査と考察)
1.はじめに
2.キメラ型タンパク質分解医薬に関する2024年の論文の動向
3.2024年に報告されたキメラ型分子の特徴と傾向
4.周辺技術および研究の動向
5.まとめ
6.追記
<2>In silico手法によるタンパク質分解医薬の設計支援
1.はじめに
2.MOE
3.Heterobifunctional Degrader Modeling Tools
4.Molecular Glue Modeling Tool
5.おわりに
<3>PROTAC開発を加速する革新的合成戦略
1.PROTAC合成戦略の変遷
2.PROTACに見られる化学結合
3.PROTAC開発のための様々な合成スタイル
4.将来の展望
<4>DNA-encoded library:PROTACと相性の良いリガンド探索技術
1.はじめに
2.DELプラットフォーム
3.DELを起点とした生物機能調節作用を有する低分子化合物の創出
4.DELを用いたPROTACの創出
5.おわりに
<5>プロテイン分解医薬(PROTAC)のドラッグデリバリーシステム
1.はじめに
2.デリバリーシステムの種類と認可されているDDS
3.デリバリーシステムとPROTAC封入
4.PROTACのターゲット
5.結論と展望
<6>タンパク質分解医薬の安全性評価に関する考察
1.はじめに
2.タンパク質分解医薬の毒性発現の分類と安全性評価の考え方
3.タンパク質分解医薬に特有の考慮事項を示した文献
4.分解機構依存的オフターゲット毒性を予測・評価する手法
5.おわりに
<7>タンパク質分解医薬の非臨床安全性評価とその課題
1.はじめに
2.TPDの非臨床毒性評価戦略
3.アカデミアや規制当局との連携
4.まとめ
5.利益相反
<8>PROTACの薬物動態特性およびその評価手法
1.はじめに
2.PROTACの薬物動態(ADME)特性
3.PROTACのin silico薬物動態評価方法
4.PROTACのin vitro薬物動態評価方法
5.今後の展望
6.利益相反
【第Ⅵ編 製薬企業の取り組み】
<1>タンパク質分解医薬の開発動向:実用化を見据えた産業界視点からの見解
1.はじめに:タンパク質分解医薬の概観
2.創薬における現状と課題
3.タンパク質分解医薬の原理と特徴
4.現在の開発動向
5.実用化に向けた課題
6.今後の展望
7.おわりに
<2>アステラス製薬におけるタンパク質分解医薬研究
─KRAS G12D変異体分解誘導剤(ASP3082)の創出に至るまで
1.単一標的創薬から多重標的創薬の時代へタクロリムスからのブレイクスルー
2.新規創薬手法としてのタンパク質分解医薬
3.KRAS G12D変異体に対する分解誘導剤研究の取り組みとASP3082の創出
4.これからの創薬化学
■監修■
内藤 幹彦
東京大学大学院 薬学系研究科 タンパク質分解創薬社会連携講座 特任教授
井上 貴雄
国立医薬品食品衛生研究所 遺伝子医薬部 部長