携帯電話基地局及び周辺部材市場の現状と将来予測 2023年版
〜総務省発表値を基に2022年度のセルラーキャリアのLTE-A/5Gインフラ戦略及び投資動向と
周辺部材市場をキャリアやベンダ、エンジ会社など多角的な視点から総合的に分析〜
セルラーキャリア各社の2022年度決算をみると、各社の設備投資額はNTTドコモが5,466億円、KDDI(au)のモバイルは3,380億円、ソフトバンクの移動通信が3,475億円、楽天モバイルは2,952億円となり、2021年度に比べ、NTTドコモと楽天モバイルは微減、KDDI(au)が縮小、ソフトバンクは微増となった。UQコミュニケーションズとWireless City Planningを含めたモバイルキャリア各社の設備投資合計は1兆5,463億円となり、投資総額自体は微減となっている。2023年度以降、ソフトバンクと楽天モバイルによる投資抑制の影響から、国内キャリア各社による投資額も縮小し、2026年度は1兆2,100億円にまで縮小する見込みである。
機器市場に関し、無線機市場はKDDI(au)の5G展開、楽天モバイルの4G/5G展開が盛況となった。第1位のエリクソン・ジャパン、第2位のサムスン電子ジャパンはKDDI(au)の旺盛な5G展開による影響が大きい。第3位のNECはNTTドコモでの堅調さ、楽天モバイルでの5G展開が奏功している。ノキアソリューションズ&ネットワークスも楽天モバイルによる恩恵を受け、富士通、AirspanNetworks、KMWと続く。また、附帯設備は無線機に比べ、市場規模が小さいため、投資の浮き沈みの影響を受けにくい状況にある。エンジニアリング(通信建設)は投資額よりも、キャリア各社の基地局計画に大きな影響を受け、2022年度はLTE周波数のNR化工事が多かったため、大手エンジ3社の業績は若干の落ち込みをみせた。
本調査企画は基地局及び周辺部材市場の現状やキャリアのインフラ戦略について、キャリアやベンダ、エンジ会社などへの多面的な取材を通じ、実態を把握し、予測することを目的としている。キャリアのインフラ戦略及び投資動向以外に、無線機やアンテナ、ケーブル、電源、蓄電池といった周辺部材、エンジニアリング市場の実態を明らかにする。
<1>モバイルキャリアの現状
1. 契約者数・業績・ARPU推移と予測(2021〜2026年度)
・2022年度の携帯電話契約数は前年度比3.9%増(年間純増786万)の2億749万契約
・2023年度第3四半期に5G契約比率は39.5%へ上昇
・2022年度の国内携帯市場の年間純増数は前年度比17万増の786万
・2022年度の業績は大手3社が増収増益の一方で、楽天モバイルは設備投資負担から営業赤字が続く
・政府による値下げ影響で回復トレンドが異なる大手3社、楽天モバイルは今後のARPU向上策に注目
2. 設備投資額推移と予測(2021〜2026年度)
・2022年度は前年度並みの1.5兆円規模を維持
・楽天モバイルの基地局投資は2024年度以降に大幅抑制
・現在は5Gがメインとなる大手3社の基地局投資
3. 基地局数推移と予測(2021〜2026年度)
・2022年度の国内基地局累積数は約122万局に拡大
・2022年度の撤去分をカウントしない国内基地局新局数は約11万局
4. 通信方式別基地局数推移と予測(2021〜2026年度)
・2022年度は約24万局の3G基地局が稼働
・2022年度はLTE基地局数が約80万局に拡大
・2022年度は5G基地局数が約17万局に拡大
5. 現状の周波数帯保有状況
・2.3GHz帯割当でKDDIグループが国内最多の保有帯域幅
6. 周波数帯別基地局数推移と予測(2021〜2026年度)
・2022年度は合計約42万局に到達
・2022年度の新局数合計は約600局
・2022年度は合計約25万局を維持
・2022年度は3Gサービス終了で新局数がマイナスに など
7. 700M/1.7G/2.3G/3.4GHz帯などの現況
・総務省の動向
・2025年度末までに5G向けへ6GHz幅の追加割当を検討
・2023年12月に周波数再編アクションプラン(令和5年度版)を公表
・キャリア各社のLTE周波数のNR化の開設計画 など
8. 基地局投資額推移と予測(2021〜2026年度)
・基地局投資は2,500億円未満で推移
・5G投資が主流となるもLTE投資も堅調
・今後の大幅な投資縮小は回避
・コアNW向けは300億円規模で推移 など
<2>注目すべきキーワード
1. キャリア各社の5Gの取り組みと現状
・総務省の動向
・2023年4月にデジタル田園都市国家インフラ整備計画を改訂
・ミリ波の活用が進まない理由
・2023年8月に5Gの整備状況(2022年度末)を公表 など
2. Open RAN/vRANの動向
・キャリアにとってのvRANのメリット
・2023年2月に日豪テレコミュニケーション強靱化政策対話(第1回)を開催した総務省
・2023年6月にKDDI(au)の5G仮想化基地局に自社製品を提供したデル
・NTTドコモの動向
・2023年9月にOREX RAN/OREX SMO/OREX Servicesを発表
・ウインドリバーの動向
・2023年9月にNTTドコモの5G仮想化基地局に自社製品を提供
・楽天シンフォニーの動向
・2024年1月にJapan OTICから認証を取得
・富士通の動向
・2023年11月にAI活用によるネットワーク運用の省電力化を実現
・Nokia Solutions and Networksの動向
・5G RANを進化させる新コンセプトのNokia anyRAN など
3. Beyond 5G/6Gの動向
・2023年12月に6Gの標準化仕様計画を発表した3GPP
・2023年5月に6G需要に焦点を当てた最新リポートを公開したNGA
・総務省の動向
・WRC-23で5G/Beyond 5G(6G)などで利用可能な周波数の分配が合意
・NTTドコモの動向
・2023年2月に6Gに関する実証実験の協力体制を拡大
・KDDI総合研究所の動向
・2023年9月に研究開発が5G-Advancedの国際標準仕様に採択
・Ericssonの動向
・2023年10月にIndia 6Gプログラムを開始
・Huawei Technologiesの動向
・2023年10月に5.5Gネットワークの最新デモを紹介 など
4. シェアリングの動向
・インフラシェアリングの取り組みに関する調査結果を発表した総務省
・JTOWERの動向
・2026年度に売上高300億円を目指す
・Sharing Design(SDI)の動向
・2023年12月からシェアリングによる5Gサービスの提供を開始
・東京都の動向
・2023年8月につながる東京展開方針を策定 など
5. カーボンニュートラルの動向
・2023年11月に2040年ネットゼロを発表したNTTドコモ
・KDDI(au)の動向
・2024年2月からサステナブル基地局の実証実験を開始 など
6. 3Gサービスの終了
・2023年3月末時点で1,874万の3Gユーザが存在
・2026年3月末に3Gサービス及びiモードを終了するNTTドコモ
・2024年4月まで3Gサービスの終了を延期するソフトバンク
<3>基地局関連機器・部材の動向とベンダシェア
1. 無線機
・2022年度はKDDI(au)と楽天モバイル向けが盛況
・5Gネットワークのエリア拡大はLTE周波数のNR化が肝要
・NTTドコモの動向
・2025年度までに4G/5Gコアネットワークを完全仮想化
・KDDI(au)の動向
・2024年1月にAIを活用した障害検知システムの運用を開始
・楽天モバイルの動向
・契約数拡大が楽天モバイル成功のカギ
・エリクソン・ジャパンの動向
・今後の国内通信市場は衰退していく見通し
・日本電気(NEC)の動向
・2025年度における5G事業の売上高目標を1,270億円に下方修正
・日本電気(NEC)の主な製品
・ノキアソリューションズ&ネットワークスの主な製品 など
2. アンテナ
・2022年度は微減となった国内アンテナ市場
・需要の中心は多周波共用や5G sub6アンテナ
・2023年11月にOREXのRUパートナー企業に加入したDKK
・2024年1月にNINJA ANTENNAシリーズをブランド化した日本電業工作
・2023年6月にメタサーフェスの液晶反射板の大型化に成功したJDI
・2023年5月にKDDIへ埋設型5G基地局向け路面設置アンテナを提供したEricsson
・AGCのガラスアンテナが渋谷スクランブル交差点の5Gエリア拡大に寄与
3. ケーブル
・KDDI(au)による恩恵を受けたFDC
・キャリアからの突発需要に対応しやすい海外ベンダ
・2024年4月にFDCへ導体事業承継させるフジクラ
・無線機を除く製品すべてをワンストップ提供できるCommScope
4. 電源
・上位3社で約80%のシェアを占有
・電源需要に寄与する楽天モバイルの4Gネットワーク展開
5. 蓄電池
・KDDI(au)による恩恵を受けたGSユアサ
・楽天モバイル特需終息でリプレース需要にシフト
・ソフトバンクの動向
・2026年に次世代電池を商用化
・2023年8月にEnpower Japanと全固体電池の高エネルギー密度化に成功
<4>エンジニアリングの動向とエンジニアリング会社シェア
1. エンジニアリング
・全国系大手エンジ会社3社のシェアは65%
・グループ内再編や組織整備が進む大手エンジニアリング会社
・KDDIエンジニアリングの動向
・2023年4月に組織改正を実施
・日本コムシスの動向
・2024年4月に組織整備を実施
・エクシオグループの動向
・2023年11月に北日本通信の全発行済株式を取得する契約を締結 など
2. 基地局工事体制・形態
・NTTドコモはエンジ会社への直接発注とドコモCS経由の2種類
・KDDI(au)もエンジ会社への直接発注とKDDIエンジ経由の2種類
・RAが復活したソフトバンクの基地局工事発注
・ソフトバンクにおける基地局設置までの大まかな流れ など
3. キャリア別エンジニアリング会社シェア(金額)
<5>モバイルキャリア戦略及び基地局市場・部材市場の総括と将来予測
1. モバイルキャリア各社のインフラ戦略総括
2. 通信方式別投資額の推移と予測(2021〜2026年度)
3. 基地局投資額の内訳推移と予測(2021〜2026年度)
4. 基地局市場の総括と将来動向
5. 基地局部材市場の総括と将来動向
6. エンジニアリング市場の総括と将来動向
■調査対象■
<キャリア>
NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンク、楽天モバイル、UQコミュニケーションズ、Wireless City Planning
<ベンダ>
・無線機
エリクソン・ジャパン、サムスン電子ジャパン、NEC、ノキアソリューションズ&ネットワークス、富士通、エアースパン・ジャパン、KMW
・アンテナ
電気興業、日本電業工作、コムスコープ・ジャパン、Tongyu Communication、日本アンテナなど
・ケーブル
フジクラ・ダイヤケーブル、コムスコープ・ジャパン、プロテリアル(旧日立金属)など
・電源
GSユアサ、華為技術日本、デルタ電子、新電元工業、オリジンなど
・蓄電池
GSユアサ、パナソニック、華為技術日本、エナーシス ジャパンなど
<エンジニアリング会社>
コムシスホールディングス(日本コムシス、サンワコムシスエンジニアリングなど)、エクシオグループ、ミライト・ワン、京セラコミュニケーションシステム、ドコモCS、KDDIエンジニアリング、SBエンジニアリング、楽天モバイルエンジニアリング、楽天モバイルインフラソリューション、レンドリース・ジャパンなど