■ポイント■
・二酸化炭素の削減や炭素資源の循環的な利活用に貢献できると期待される二酸化炭素の化学的変換・化学的利用!
・二酸化炭素の回収技術から有効利用について、基礎から応用までバランスよく解説した一冊!
・「実用化」「社会実装」が実現している、あるいはその一歩手前まで来ている事例を豊富に紹介!
■概要■
地球温暖化との関連から、“二酸化炭素”を減らそう!、使おう!、何とかしよう!などと盛んに言われるようになってから、すでにかなりの年月が過ぎた。気がつけばマイル・ストーンの一つである「2030年」が目の前に迫っている。そのような社会情勢・時代背景の関連からだろう、社会人向けセミナーの講師や専門書籍の執筆などのご依頼が絶えることなく続いている。もちろん、二酸化炭素の有効利用、特に化学変換を伴う炭素資源としての利活用、について解説せよとの命を受けてのことである。
本稿を書いている時点(12月4日)では、国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)がまさに開催の真っ只中にある(12月12日閉会予定)。当会議での岸田文雄首相のスピーチによれば、日本(日本政府)は、「徹底した省エネと、再エネの主力電源化、原子力の活用等を通じたクリーンエネルギーの最大限の導入を図ります。」を行動目標に掲げている。不名誉にも4回連続で化石賞を受賞した我が国にとって、常にやり玉に挙げられる火力発電からの早期脱却をめざそうとする意図は明白である。
しかし、エネルギー周辺の対策だけでは「二酸化炭素をこれ以上は増やさない」ためのものに留まるに過ぎず、残念ながら「今ある二酸化炭素を減らす」ための実効的な対策とは言い難い。やはり、二酸化炭素を減らす対策・技術の加速・強化には、さらには、現代の社会や生活の基盤に欠かせない有用有機化合物(有機機能性材料、医薬・合成農薬など)を製造するに必要な炭素資源の将来的な確保の観点から、大目的「二酸化炭素を化石資源に代わる直接的な炭素原料として有用な化合物を合成する」を掲げることは必須だろう。二酸化炭素の化学的変換・化学的利用は、二酸化炭素の削減にも、炭素資源の循環的な利活用にも、双方に大きく貢献できると期待されるからである。
今般、シーエムシー社の井口様より本書の監修をご依頼された。思い返せば、二酸化炭素の利用についての解説を初めて執筆したのは、『CO2固定化・隔離の最新技術』(2000年、シーエムシー)だったので、“一周まわって元のところに戻ってきた”格好である。これもひとえに、ありがたいご縁が繋がったものと受け止め、一も二もなくお引き受けした次第である。
監修・編集にあたり、他の書籍との差別化を図る意味でも、可能な限り「実用化」「社会実装」が実現している、あるいはその一歩手前まで来ている事例を実際に手がけていらっしゃる事業者さんにお願いしようと企んだ。近年の学術的な技術開発も採録したので、全体としては基礎から応用までバランスのよい仕上がりになったのではないかと自負している。偉そうな物言いになったが、すべては井口様をはじめとする編集に携わったみなさまとご執筆者のご尽力の賜物であることに間違いない。
本書が、読者のみなさまにとって、今ある技術の洗練化や今はまだない新技術を創出のきっかけ・ヒントになれば幸いである。
<1>CO2吸収・吸着材料
1.リチウム複合酸化物系CO2吸収材の開発とその応用
・近年のCO2吸収材を取り巻く環境
・CO2吸収材に関する簡単な分類
・化学反応を利用したCO2吸収材(液体型から固体型へ)
・Li系複合酸化物CO2吸収材の欠点
・Li複合酸化物系CO2吸収材を常温で使用するための自己発熱機能
・自己発熱機能を持つCO2吸収コンポジットのCO2吸収能をさらに増大させる
・自己発熱型CO2吸収コンポジットの応用分野
2.エラストマー系CO2吸収材
・エラストマー系CO2吸収材
・PDMSラバーのCO2吸収挙動
・CO2回収プラント
・CO2回収システムの事業化
3.相分離型ゲルに対するCO2吸収における物質移動
・相分離吸収液
・相分離吸収ゲルにおける物質移動
・二酸化炭素の物質移動解析
4.イオン液体や深共晶溶媒を用いたCO2化学吸収液
・イオン液体によるCO2化学吸収
・深共晶溶媒によるCO2化学吸収
5.水分を分離するCO2吸収/放出剤の開発
・大気中CO2の選択的回収
・水中でのCO2選択的回収
・逆親媒性型自己組織化
<2>CO2分離膜材料
1.CO2分離膜を中心としたCO2回収・有効利用の現状と可能性
・CCSとCO2分離回収技術
・高分子膜によるCO2分離回収
・高分子膜の実用化への課題
・膜分離によるCO2分離回収の可能性
2.高分子CO2分離膜の技術動向
・高分子ガス分離膜の基礎
・高分子ガス分離膜の各論
・CO2分離性能の比較
・まとめ
3.大気中からの直接的CO2回収を可能とする分離ナノ膜の開発
・膜分離の機構
・分離膜のCO2透過性向上
・分離膜のCO2選択性向上
4.有機-無機ハイブリッド二酸化炭素分離膜の創製
・TR-PBO-シリカハイブリッド膜の作製と気体透過・分離性評価
・TR-PBO-シリカハイブリッド膜のキャラクタリゼーション
5.金属有機構造体(MOF)を用いたCO2分離材料の開発
・はじめに
・金属有機構造体(MOF)
・MOFを用いたCO2の吸着分離
・実用化に向けた取り組み
・今後の展望
6.高シリカCHA型ゼオライト膜のCO2分離への応用
・ゼオライト膜によるCO2分離
・高シリカCHA膜(ZEBREXTM)の開発とガス分離特性
・最近の高シリカCHA膜の研究開発状況
<3>CO2分離回収・有効利用の実際
1.炭酸ガス製造の現状とCO2分離回収装置の適用事例
・炭酸ガスマーケットと用途、製造方法
・CO2分離回収技術
2.PSA法による高炉ガスからの炭酸ガス分離技術の開発
・高炉プロセスとCO2分離回収方法
・PSA法を高炉ガスからのCO2分離に適用するための課題
・ベンチプラント試験とスケールアップ検討
3.二酸化炭素とアルコールからのカーボネート合成の実用化
・ポリカーボネートとは
・ポリカーボネートの製造方法
・三菱ガス化学におけるポリカーボネートの歴史
・三菱ガス化学におけるDPC製造プロセス研究開発の取り組み
・三菱ガス化学におけるCO2 to DPC製造プロセスの研究
・CO2を原料としたDPC製造研究
4.炭素循環型社会に向けたCO2水素化による有価炭化水素製造技術
・メタネーション技術
・低級オレフィン合成およびSAF向けの炭化水素合成
・まとめ
5.コンクリート分野におけるCO2削減・有効利用技術とカーボンネガティブコンクリート「CO2-SUICOM」
・コンクリートにおけるCO2削減・固定技術への着目
・コンクリートにおけるCO2排出量
・コンクリート分野でのカーボンニュートラル達成に向けた日本の動き
・コンクリートの炭酸化反応とその利用
・今後の展開
6.CO2を食べる自販機の開発
・背景
・CO2を食べる自販機および資源循環概要
・まとめ
<4>CO2の有効利用
1.CO2の回収・利用への触媒開発と化成品製造、有用物質への変換
・CO2を原料とする工業的な化成品製造
・CO2を原料とする研究段階の取り組み
2.CO2を活用した基礎化学品合成
・低温メタノール合成
・エタノール合成
・アクリル酸合成
3.CO2の資源化に寄与する触媒とケイ素系還元剤
・背景
・CO2の還元反応に活性を示すフッ化物塩
・なぜ金属ケイ素を還元剤として用いるのか
・金属ケイ素を還元剤とするCO2の還元反応
・触媒反応による金属ケイ素の変化と推定される反応機構
4.固体触媒を用いた二酸化炭素とアミンからの尿素誘導体合成
・エチレンジアミンと二酸化炭素からの2-イミダゾリジノン合成について
・二酸化炭素吸収エチレンジアミンからの2-イミダゾリジノン直接合成
・連続流通固定床反応装置で酸化セリウム触媒を用いた二酸化炭素吸収エチレンジアミンからの2-イミダゾリジノン合成
・まとめと展望
5.CO2とCS2を用いる高分子材料の開発
・背景
・五員環カーボネート構造を持つポリマーの合成
・ポリヒドロキシウレタンの合成と反応
・ポリヒドロキシウレタンの応用
・CS2を用いる高分子の合成
・まとめ
6.CO2資源化法としてのウレタン合成
・CO2を用いる置換反応によるウレタン合成
・CO2とシリルアミンを用いる付加型ウレタン合成
・炭素-炭素不飽和結合へのカルバミン酸の付加反応によるウレタン合成
・CO2とエポキシド・アジリジンを用いるウレタン・ポリウレタン合成
・まとめ
7.CCUS・カーボンリサイクルの展望:化学品製造を中心に
・CCUS・カーボンリサイクルの背景
・二酸化炭素(CO2)から生成される化学品
・内外企業の化学品製造に向けた取り組み
・課題
8.複核錯体触媒を用いたCO2水素化による低温メタノール合成
・従来のメタノール合成触媒
・分子触媒を用いるCO2水素化によるメタノール合成
・複核イリジウム触媒による低温メタノール合成
・まとめ
9.光にも熱にも応答する(PNNP)M錯体触媒を用いるCO2還元反応の開発
・光エネルギーを用いるCO2還元反応
・熱エネルギーを用いるCO2還元反応
<5>CO2有効利用のための関連技術・基礎技術
1.グリーン水素製造技術としての水電解
・グリーン水素
・水電解の歴史と基礎
・アルカリ水電解
・固体高分子形水電解
・高温水蒸気電解
2.CO2分離回収プロセスの物質収支、エネルギー収支、コスト計算
・物質収支
・エネルギー収支
・CO2分離プロセスのコスト計算
・まとめ
3.CO2の排出量を算定するライフサイクルアセスメントの活用
・ライフサイクルアセスメント(LCA)とは
・LCAの手法
・LCAの実施手順
・LCAの実施:インベントリ分析
・LCAの実施:環境影響評価
・LCA結果の解釈、報告
・配分
・システム間の比較
・LCAデータベース
・二酸化炭素の回収・有効利用におけるLCAのためのガイドライン
■監修■
杉本 裕
東京理科大学