■ポイント■
・地球温暖化対策として期待が高まるCO2回収・貯留技術(CCS)!
・脱炭素化に向かうエネルギーシステムの中で、化石燃料が存続するカギとなるCCSの技術や政策動向を幅広く取り上げた一冊!
・CCS実用化の動向、CO2回収・利用技術(CCU)も含めたCCUSの動向、CO2分離回収技術、CO2輸送技術、CO2貯留技術・評価、の全5章で徹底解説!
■概要■
地球環境産業技術研究機構(RITE)の主要な技術開発テーマの一つにCCSがある。CCSとは、CO2 回収・貯留技術(CO2apture and Storage)のこと、研究開発現場では、最近はCO2回収・利用技術(CCU:CO2 Capture andUtilization)もCCS と並行して進められているので、合わせてCCUSと呼ばれることが多くなった。認知度はまだ低いが、地球温暖化対策の中でCCUSに期待されている役割は大きい。本書のテーマはCCS技術であるが、カーボンリサイクルとも呼ばれるCCUも視野に含めて解説している。
地球温暖化はCO2を主体とする温室効果ガスが大気中に貯まることによって生じている。省エネや再エネ、原子力など温暖化対策としてよく知られている技術は、エネルギー利用から発生するCO2 を削減する技術であって分かり易い。これらに対してCCUSは、CO2の発生は前提とするが、CO2が大気中に貯まらないように、大気に放出される前に回収して地中などへ貯留(CCS)あるいは素材製造などに利用する(CCU)技術である。
つまり、CCUS は、公害対策における排ガスの脱塵や脱硫のように、環境への放出口で汚染物質を除去するエンド・オブ・パイプ型の環境対策技術である。根源を絶つのではない受け身の対策で、イメージは今一つだが、公害対策で実証されたように効果は大きい。わが国政府は今年1 月から「CCS長期ロードマップ検討会」を設置し、CCS実用化に向けた法制度など事業環境整備の検討を進めている。
また、既に大気中には多くのCO2が貯まっているので、CO2 を大気から直接回収するDAC(Direct Air Capture)技術も検討されている。DACは大気からCO2を減らすので負の排出技術(NETs:Negative EmissionTechnologies)と呼ばれている。NETs には他にもバイオマス利用とCCSを組み合わせるBECCS(Biomass Energy with CCS)や植林による大気中のCO2 固定等がある。
本書では、脱炭素化に向かうエネルギーシステムの中で、化石燃料が存続するカギとなるCCS 技術の解説に焦点を当てつつ関連する技術や政策の動向を幅広く取り上げた。具体的には、<1>においてCCS実用化の動向を取りまとめ、<2>ではカーボンリサイクル(CCU)への取り組みも含めてCCUSの社会実装に向けた動きを概説した。<3>ではCO2分離回収技術の総括的解説、<4>ではこれまであまり注目されていなかったCO2輸送技術の開発動向を紹介し、<5>ではCO2貯留技術とその評価を解説する。
本書が地球温暖化対策に取組むすべての皆様に役立つことを期待している。
<1>CCS事業化への展望と課題
1.はじめに
2.CCS事業化の変遷
3.CCS事業化の課題
・社会受容性の問題
・技術の問題
・政策・法制度の問題
・経済性の問題
4.マーケットプル政策とテクノロジープッシュ政策
・米国でのCCS事業化の例
・欧州でのCCS事業化の例
5.まとめ
<2>CCSの社会実装へ向けた動き
1.CCSの普及に向けて
・適用時期と削減規模
・CCSの経済的受益者と本質的受益者
・CCS事業者の参入と完了
・CCSの概念的理解と本質的意義
・まとめ
2.大規模CCSの世界初プロジェクトと過去15年の動き
・はじめに
・3つの世界初稼働の大規模CCSプロジェクト
・CCS第1次ブーム:2000年代終盤
・CCSプロジェクトの低迷期:2010年代前半
・CCS第2次ブーム:2010年代後半以降
3.CCSの商用化に向けた道筋
・CCS需要と社会実装のボトルネック
・投資拡大のための課題
・2030年商業化のための政府の支援と投資環境整備
・まとめ
4.パリ協定下におけるCCS技術の意義と課題
・パリ協定とカーボンニュートラル
・CNの概要
・世界におけるパリ協定と整合的なシナリオにおけるCCSの役割の分析
・日本の2050年カーボンニュートラルのシナリオ
・CCSの意義と課題
5.世界のCCSプロジェクト動向
・はじめに
・CCS、ネットゼロ、経済発展
・世界のCCS施設
・技術革新による二酸化炭素除去
・CCSの新たな展開
6.CCSの国際標準化動向
・ISO/TC265設立とこれまでの経緯
・TC265及び国内の体制
・標準化の進め方
・TC265の各分野の標準化進捗状況
・今後の予定
7.日本のCCS導入に向けた事業環境整備の検討
・はじめに
・我が国のCCSの位置づけ
・CCS導入に向けた事業環境整備
8.ブルー水素・ブルーアンモニア
・はじめに
・水素・アンモニア製造
・ブルー水素・ブルーアンモニア
・まとめ
9.カーボンリサイクル技術(Carbon Recycling Technologies)
・はじめに
・カーボンリサイクル技術ロードマップ
・カーボンリサイクルと炭素循環
・カーボンリサイクル技術マップ
・カーボンリサイクルへの取り組み
・おわりに
10.2025年大阪・関西万博におけるDACCSの検討
・革新的環境技術と大阪・関西万博
・大阪・関西万博におけるDACCS発信の意義
・DACCS実証
・まとめ(DACCS実証の意義)
<3>CO2分離回収技術
1.CO2分離回収技術概説
・CO2分離回収技術開発の動向
・吸収法
・吸着(固体吸収)法
・膜分離法
2.実用化に向けたCO2分離回収技術開発プロジェクトの動向
・苫小牧におけるCO2回収技術について
・製鉄所からのCO2分離回収技術開発
・化学吸収法によるCO2分離回収の新展開
・PSA法による高炉ガスからの炭酸ガス分離技術の開発
・二酸化炭素固体吸収材の実用化に向けた研究開発の進展
・大気中からの直接CO2回収技術(Direct Air Capture:DAC)
・CO2-EORおよび天然ガス事業におけるCO2分離向けDDR型ゼオライト膜プロセスの開発
・二酸化炭素分離膜モジュール実用化研究開発の成果について
<4>CO2輸送技術
1.CO2輸送技術概説-パイプライン輸送と船舶輸送
・はじめに-CO2の状態図と輸送
・パイプライン輸送
・船舶輸送
・ネットワーク
2.パイプライン輸送技術に関する国際規格の動向
・はじめに
・CO2パイプライン輸送に係る国際規格の最新動向
・プロジェクト事例紹介
3.船舶を用いた輸送システムの実用化に向けた動き
・はじめに-輸送システムとその前後について
・液化CO2輸送船
・荷役装置
・液化装置
・一時貯蔵タンク
<5>CO2貯留技術・評価
1.CO2地中貯留技術開発と実用化への取り組み
・はじめに
・貯留層評価および事業性評価に係るSRM手法の開発
・社会合意形成SLO手法の開発
・まとめ
2.貯留サイト選定〜この10年の進展
・世界における地中貯留プロジェクトの流れ
・地中貯留技術の標準化
・地中貯留技術に対する共通認識の醸成と信頼性/期待度の向上
・地質リスク評価における変化:断層に関わる地質リスク
・サイト選定において重視すべき観点のシフト
3.CO2地中貯留サイト特性評価および地質モデリング技術
・サイト特性評価の概要
・貯留コンプレックスの特性および貯留能力評価
・地質モデリング
・CO2貯留資源量(CO2 Storage Resources)の評価
4.CO2の地中挙動シミュレーション技術
・概要
・CO2の地中挙動シミュレーション
・評価事例
・まとめ
5.CO2モニタリング/CO2漏洩評価技術・微小振動評価技術
・はじめに
・CO2漏出評価技術
・微小振動評価技術
6.CO2モニタリング/重力測定技術
・はじめに
・CO2地中貯留に伴う重力変化
・CO2地中貯留サイトへの適用
・重力モニタリングの運用
・今後の課題
7.CO2モニタリング/光ファイバーセンシング技術開発
・はじめに
・光ファイバー測定技術の基本原理
・分布式ひずみ測定による地層安定性監視技術開発
・DAS/VSPによるCO2挙動モニタリング技術開発
・まとめ
8.マイクロバブルCO2圧入技術開発
・はじめに
・マイクロバブルの特徴及び発生方法
・地層水へのCO2溶解促進及び貯留層の掃攻効率向上
・不均質性や低浸透性地層へのマイクロバブル圧入によるCO2貯留率向上
・まとめ
9.CO2地中貯留事業の経済モデル
・はじめに
・“Unlocking CCS”の考え方
・日本におけるCCSビジネス展開の可能性
・おわりに
10.二酸化炭素貯留適地調査事業の概要と現況について
・二酸化炭素貯留適地調査事業の経緯
・貯留適地選定プロセス
・調査実績およびこれまでの成果
・地質的観点以外の貯留適地選定上の条件
■監修■
山地 憲治
(公財)地球環境産業技術研究機構